《短編》春夏秋冬
「ここに来る前に別れてきた。っていうか、ほんとはもう、ずっと前に終わってたんだけどさ、俺ら。でも、あいつが『最後にクリスマスだけは』とか言うから」

「………」

「でも、晴香から電話かかってきて。あいつ、『どしても行くの?』、『何で?』って。だけど、俺、あいつより晴香のことの方が心配で」

「………」

「おかしいよな。つーか、変だよな。俺はもう振られてんのにさ。それでもたった一本の電話でここまで来ちゃって」


私は顔をうつむかせ、「ごめん」とまた言った。

何に対しての謝罪なのかはわからないけれど。


ナツはそんな私を一瞥する。



「なぁ。今更だけど、やっぱ俺じゃダメなの?」

「………」

「俺、金も時間もないし、制服デートとかもできないけど、晴香の苦しみとかは半分にしてやれるよ。そのためなら、いくらでも頑張れるし」

「………」

「他のやつといても忘れられなかった。こういうの、未練がましいだけなのかもしれないけど、俺は今もまだ晴香のこと好きなんだよ」


一度に色んなことがあり過ぎて、頭がパンクしてしまいそうだった。

答えに窮した私に、ナツは肩をすくめて見せ、



「まぁ、こんな時に言われても困るだろうから、ゆっくり考えといてよ。今度はもう、俺いなくなったりしないから」


頭を撫でられた。


ナツの真っ直ぐな気持ち。

私はうなづく。



「何か話しよっか。すっげぇくだらないこととかさ」

「うん」

「どんなのがいい?」


それが、私の気を紛らわせてくれるためであるということはわかった。


ナツの優しさを噛み締める。

私は自然と笑顔になれた。

< 63 / 69 >

この作品をシェア

pagetop