《短編》春夏秋冬
お兄ちゃんはまた煙を吐き出した。



「昔、俺らの仲間と遊んでた時に、晴香、ジャングルジムから落ちて怪我したろ?」

「え? あ、うん」

「あの時に、俺はこっぴどく怒られて。『6年生の遊びに、3年生の、しかも女の子を連れて行くだなんて』って。『二度とするんじゃない』ってさ」

「………」

「あの時からだよ。俺が晴香と遊ばなくなったのは。まぁ、晴香には晃がいるからいいかなぁ、とも思ってたけど」


何が言いたいのかわからない。

お兄ちゃんは昔から説明下手で、だからなのか、自分で言いながら途中で首をかしげ、



「とにかく、俺はな、決してお前が嫌いなわけじゃない。むしろ、箱入り娘のように可愛がってきたつもりなんだよ」

「………」

「父さんだって母さんだってそうだ。俺の誕生日にはゲーム買い与えるだけなのに、晴香の誕生日にはわざわざ部屋を飾り付けまでして誕生会なんかして」

「………」

「あ、父さん、晴香に会いたがってたぞ。いや、それはいいんだけど。だからまぁ、そういうことで、離婚はしない方向でとか何とか」


もう、後半はめちゃくちゃだった。

大学生の語彙力はこれでいいのかと思うほどに。


けど、でも、お兄ちゃんの気持ちは汲み取った。



「ありがとう、お兄ちゃん」

「俺は別に。それよりお前、あの男に礼言っとけよ。何かわかんねぇけど、世話になったんだろ?」

「うん。そうだね」

「俺また病院戻るし。父さんの着替え取りに来ただけだから。もう、寝てなくてやばいんだけど」

「あ、私も行くよ」

「じゃあ、後で来いな。母さんも疲れてるみたいだから、交代してやってくれ」

「わかった」


お兄ちゃんは、大あくびのまま、よろよろと部屋を出て行く。


後ろ姿はチャラ男みたいだった。

けれど、大好きな、頼れる兄。

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