《短編》春夏秋冬
「何? ナツと喧嘩でもしたか?」


話を聞き付けたのか、やってきた晃は飴をくれながら聞いてきた。


さすがは幼馴染。

救世主というか、頼れるお兄ちゃんというか。



「知らないよー。映画がナントカで『バーカ』だって」

「ふうん」

「何で私が『バーカ』なのよ、もう。あんなやつこらしめといてよ、晃」

「はいはい。何かよくわかんないけど、わかったからそう怒るなよ」


なだめるように言ってくれる晃。


晃のことを、『事なかれ主義』だと言う人も多い。

けど、でも、私はそれを優しさだと思っている。



「ねぇ、晃! これ職員室まで運ぶの手伝って!」


見ると、美冬はノートの山を抱えていた。



「何? 今日の日直、美冬?」

「そうなのよ。何であたしの時ばっかり、こんなに!」

「もうひとりは?」

「ナツ。でもどっかに消えちゃったんだよ。腹立つでしょ」

「まったく、あいつは」

「だから、手伝ってよ!」

「はいはい」


ナツが『消えちゃった』のは、私の所為だろうか。

まぁ、いいけど。



それにしても晃って優しいよねぇ、と、美冬のノートの山のほとんどを持ってあげている姿を見ながら私は思った。

晃と美冬が一緒に歩いてると、お似合いだなぁ、なんて思いながら見てしまって。


別に私たちの間には“そういうの”はないとはいえ、先ほどナツとあんな話をしたからなのか、何だか変な感じがした。




晃のくれた飴はすっぱかった。

それが喉の奥に張り付いたような感じで、少し気持ち悪くなった。

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