《短編》春夏秋冬
夜、晩ご飯を食べ終え、自室の窓を開けてみる。
窓の向こうに窓。
電気のついた、晃の部屋。
「あーきーらー」
呼び掛けてみると、少しして、向こうの窓が開いた。
「近所迷惑」
距離にして、約2メートル。
私たちは昔からよくこうやって、窓越しに会話する。
「何? 用があるなら家来いよ」
「だってこっちのがすぐじゃん」
「そういう問題じゃないって昔から言ってるだろ」
「しっかし、風が気持ちいいねぇ」
「いや、聞こうよ、人の話。お前は昔からすぐそうやって話が逸れる。ナツもだけど、話してる方の身にもなれっての」
何でいきなりナツの話になったのかわからない。
驚いて、目をぱちくりとさせる私に、晃は、
「俺と美冬がどんだけ迷惑してると思ってんだよ」
「え? 迷惑だったの?」
「じゃなくて。たとえ話なんだけど。もう、会話にならないし」
肩をすくめた晃は、改めて「それで?」と聞いてきた。
が、特に用があって声を掛けたわけではなかった私は、少し困った。
曖昧な顔で笑うと、晃はがっくりと肩を落とす。
「ほんとに、晴香ってやつは」
「何?」
「いや、こっちのこと。それより今日もまだ帰ってないの? おじさんとおばさん」
「あぁ、うん。そうみたい。仕事のことはよく知らないけど、忙しいんじゃないかな」