不誠実な恋

随分と年月が経った今でも記憶の中に鮮明に残るのは、決して良い思い出とは言えない。

下腹部を突き刺すような激しい痛みと、それに伴う吐き気。
左腕に繋がれた点滴のチューブを視線で辿ると、ポタポタと落ちる液体が見える。
それがまるで涙のようで。

真っ白な天井をぼんやりと眺めながら、最愛の人が瞳を伏せて告げた言葉を何度も繰り返す。


結婚せなあかんねん。
俺のために、って言うたらふってくれる？


その問いかけは、あたしがそれまでに聞いた言葉の中で一、二を争う程に卑怯なもので。
こちら側から別れを切り出すことが出来ないことを知っていながら言うのだから、侑士にしてみれば「結婚するけれど別れたくはない」と言っているようなもの。

それならば。と、意を決してわざわざ罪を背負うためにここに足を踏み入れた。侑士には告げず、ただ一人その事実に気付いていた彼の悪友にだけ告げて。