不誠実な恋
廊下から聞こえる騒々しさに柵に手を付きながら体を起こすと、静かに開かれた扉の前で息を切らせたナースが声を押し殺すようにその騒々しさの原因を教えてくれた。
「彼氏さんいらっしゃってますよ。どうされますか?」
「追い返してください。そんな人間はおらん、って」
「そうしたいのはやまやまなんですが…ご存知でしたか?」
「何を?」
「彼のお姉さん、ここに勤めている看護師なんです」
「それは…参ったなぁ」
少しくらい頭を使えば良かった。と、後悔しても遅かった。
いくら守秘義務があるとはいえ、姉弟間のこと。見知った彼女が堕胎手術を受けに来たとなれば、すぐさまその父親である侑士に連絡が行くのは当然のことだろう。
それを責めることも出来ないし、隠し通すことさえもう不可能だ。
通して下さい。そう言う前に必死の形相が姿を現し、引っ叩かれるのではないだろうかというくらいの勢いでベッドサイドまでふらつく足が駆け寄って来た。
「美雨…お前…」
「失敗やったなぁ。侑士のお姉ちゃんがここで働いてたなんか。ちゃんと聞いとけば良かったわ」
「あほかっ!そんな問題とちゃうやろっ!」
「そんな問題やって。結婚するんやろ?産んでもしゃぁないやん」
「それは…」
「良かったんやって、これで」
左側にはゆっくりと落ちる点滴、右側にはあたしの手を痛いくらいに握り締めながら、声を押し殺して泣き崩れる最愛の恋人。
これで良かったのだ。と、手術後の痛みよりも傷付けてしまった痛みの方が大きかった26歳の夏。
「彼氏さんいらっしゃってますよ。どうされますか?」
「追い返してください。そんな人間はおらん、って」
「そうしたいのはやまやまなんですが…ご存知でしたか?」
「何を?」
「彼のお姉さん、ここに勤めている看護師なんです」
「それは…参ったなぁ」
少しくらい頭を使えば良かった。と、後悔しても遅かった。
いくら守秘義務があるとはいえ、姉弟間のこと。見知った彼女が堕胎手術を受けに来たとなれば、すぐさまその父親である侑士に連絡が行くのは当然のことだろう。
それを責めることも出来ないし、隠し通すことさえもう不可能だ。
通して下さい。そう言う前に必死の形相が姿を現し、引っ叩かれるのではないだろうかというくらいの勢いでベッドサイドまでふらつく足が駆け寄って来た。
「美雨…お前…」
「失敗やったなぁ。侑士のお姉ちゃんがここで働いてたなんか。ちゃんと聞いとけば良かったわ」
「あほかっ!そんな問題とちゃうやろっ!」
「そんな問題やって。結婚するんやろ?産んでもしゃぁないやん」
「それは…」
「良かったんやって、これで」
左側にはゆっくりと落ちる点滴、右側にはあたしの手を痛いくらいに握り締めながら、声を押し殺して泣き崩れる最愛の恋人。
これで良かったのだ。と、手術後の痛みよりも傷付けてしまった痛みの方が大きかった26歳の夏。