不誠実な恋
脇を支えてエスカレーターを上り、やっとの思いでベンチに座らせた侑士は、今にも泣き出しそうな表情をして未だ呪文のような言葉を唱え続けていた。

自ら罪を背負うより、何も知らされずにその事実を突きつけられた方が何倍もショックを受ける。
ショックだけで済めば良いけれど、残してしまった大きな傷跡を癒す術をあたしは知らなかった。

「もう済んだことやん?ええ加減やめようよ、そうゆうの」

綺麗ごとばかりを並べるつもりは無い。それだけで片付くならば、あたし達の関係はあの時点で終わっていたのだから。

それを証拠に、あたし達はお互いを傷付け合っても尚その関係を崩そうとはしない。


それは、一種の自傷行為。
傷付いた分だけ想いが深くなる。


それがあるからあたし達はお互いに縛り付けることが出来るのだから。


「あたしは侑士が幸せならそれでええんよ。他に何も望んでへんから」


いつもならば直ぐに見破られる嘘も、この状況ではさすがに無理だろう。そう高を括っていたあたしが馬鹿なのか。

顔を上げ、不機嫌を前面に押し出して侑士はあたしを睨み付けた。

「嘘つきやな、美雨は」
「失礼な」
「何でいっつも自分一人で抱え込もうとすんねん。そないに俺は頼りないんか?」

全部お見通し。とでも言いたいのだろうか。

確かに、あたしはお世辞にも嘘が上手いとは言い難いし、強がりを完璧に隠せるほど器用でもないけれど。だからと言って、今までずっとそれで生きてきたのに今更変えられるはずもない。

そこは、わかっていてもあえて核心を突かないで心の中で笑っていてくれるのが優しさというものではないだろうか。
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