不誠実な恋
「はぁ…勝手にキレんとって」
「美雨が嘘つくからやん」
「嘘ちゃうやん。常にそう思おうと努力してます」

お互いにもういい大人だというのに、何故こんな事で口論を始めなければならないのか。
呆れを通り越して悲しくなってくるのはあたしだけだろうか。

「絡まんといて。ほら、新幹線来るで。さっさと乗って奥さんとこでも愛人とこでも行き」
「言われんでも行くわ」
「そうか。そりゃ良かった」

否定せずに黙り込むならまだしも、完全肯定となればそれはそれで気分が悪いというもの。
脇に置かれていた小さな旅行鞄を押し付け立ち上がらせると、そのまま未だ温もりの残るベンチへと顔を伏せた。


引き留めたい


そう願って伸ばした手をぐっと握り締め、背を向けたままその温もりを残した張本人を送り出す。
振り返れば引き止めかねない。いくら何でも、それはルール違反だろうと思う。

たとえ他に何人もの愛人が存在しようが、奥さんと呼ばれる立場の女性に対して失礼極まりない。
この存在だけで、お互いに傷付け合った事実があるだけで、その女性を醜い嫉妬の渦に突き落としたというのに。

立場というものを弁えられないほど子供では無い。かと言って、全てに耐えられるほど大人にも成りきれない。

中途半端なまま、長い年月を過ごしてきたのだ。
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