不誠実な恋
「惚れた…って言ったら?」
「んー、せやなぁ。名前と携帯番号くらいは残して帰ってもええかもしれんな」
「それだけなんだ」
「何か他に期待しとるん?」
「別に」
所詮、夢は夢。儚く散るからこそ綺麗だ。と、どこかの作家さんが書いていたような気がする。
ほんの一瞬だとしても、夢を見れただけ幸せだと思えれば良いとしよう。
「名前は侑士。んで、携帯番号が…」
抱え込んでいた単行本の表紙の裏側に残された青い文字は、想像していた通りの整った文字で。数字が並べられただけだけれど、何故だか特別な呪文のように見える。
「名前は?」
「奈月」
「なつき…なつ…なっちゃんやな。決まり」
「決まりって…。てか、こんなところに書かないでよ」
「あら、怒った?せやかて気に入って読んでんねやろ?この本」
「気に入ってるから大事にしたいの」
「俺の携帯番号も一緒に大事にしてくれたらええやん」
「わけわかんないし」
頬を膨らませると、数秒遅れてあの笑顔が見れる。実年齢は知らないけれど、とても幼くて可愛らしい笑顔が。