不誠実な恋
「また違う女?」


溜息混じりのその声にネクタイを緩めながら顔だけ振り向くこの男は、くだらない言い訳を並べることも無くただ黙って微笑む。いつもながらに賢い選択だ。と、諦めるのは決まってあたしの方。

前の女がおそらく…いや、間違いなく故意的に残しただろう残り香に気付かない程鈍いはずはないだろうに。


「妬ける?」


妬けると言うよりも、寧ろ絞め殺してしまいたい。そんな泥臭い気持ちをただただそっと飲み込み、小さな溜息を一つ。

たとえそれを口に出したところで、冷静沈着を決め込むこの優秀な男は眉一つ動かさずに 微笑むだけだ ということは百も承知なのだから。

「真咲はホント冷たいよね」
「ソレハドウモアリガトウ」
「褒めてないよ?」


ベッドに腰掛けたあたしを腕の中に収め、そっと髪を梳く手も緩やかに溜息混じりの言葉を押し出す。

あたしとて、それを褒め言葉だと受け取れる人が存在するのならば是非ともお会いさせていただきたいもので。

深く吐く溜息と、何を考えているのかさえも隠してしまう微笑み。
悲しきかな、それだけで会話成り立ってしまうのが今のあたし達の関係。
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