不誠実な恋
「少しは妬いてくれても良いんじゃない?」
「今更?」
「そう、今更」
「まさか。もうそんなに若くないから」

本当は、年齢などは全くと言って良いほど関係無く、あたしの個人的な想いのせいなのだけれど。
それがわかっているからこそ、清太郎は無理に問い詰めたり心の中を暴いたりはしない。


自分にとっての利益、不利益を考え、一番スマートにその場をしのげるやり方で世間を渡って行く。
学生時代からそんなところだけは変わっていない。

それを賢いと言うのか、卑怯と言うのか。

人それぞれに言い表し方はあるだろうけれど、あたし的には明らかに後者だ。


「無理しなくても良いのに」


反論を許されずに重ねられた唇は、この想いに気付いたあの時には既に他の女性の物で。
あの頃と変わらず鍛えられたこの腕も、無防備に見せる笑顔も。
奪い取りたい。と、そう思わないこともないけれど、そうしてしまった後の世間の目が怖かった。


特に、あたしもあの女性もよく知る先輩達の哀れみを含んだ蔑むような目が。

「ねぇ、他に言いたいことあるんじゃない?」
「何?」
「誤魔化さなくても良いんだって」

この数年間の内で、喧嘩をしたこともあれば泣いて辛さを訴えたこともある。
それでも別れの言葉を口にしなかったのは、いつか、もしかしたらと…そんな甘い考えがあったせい。
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