不誠実な恋
「宮川チーフ、ご結婚おめでとうございます。大阪支社でもご活躍を期待しています」

無理に作った笑顔でも、幾分かは効力があるだろう。
惜しげもなく涙を零して、大きく頭を振る親友だったはずのこの男には。

「感謝してよ?大人しく身を引いてあげるんだから」
「そんなこと…俺は望んでないよ」
「里奈先輩、気付いてるよ。一昨日会社で会ったもの」
「ホントは…俺…」
「あたしをこれ以上悪者にしないで。先輩達にバレたらただじゃ済まないんだから」
「真咲…」

引き止めてほしいと涙ながらに訴える清太郎を押し退け、仮面が外れぬ間に背を向ける。

涙など見せるものか。
絶対に。

これが最後にして最大の強がりなのだから。

「幸せになりなよ、清太郎」
「真咲…ズルイよ」
「ズルくて結構。好きだよ、清太郎。大好き」

卑怯なのはあたしの方だ。
決して口に出してはいけない想いを吐き出し、それでこの男の人生を縛り付けてしまおうというのだから。

「清太郎とはお友達よね?」と問いかけるあの女性に満面の笑みで頷き、「清太郎はいつだって里奈先輩しか見てませんよ」と大嘘をつくような女なのだから。



「好きよ、清太郎。大好き。幸せになって」



最後の言葉を押し出した時にしたキスは、もうどちらの涙の味かもわからない。そんな状態だった。
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