不誠実な恋
「バカよね、あたしも。最初から答えなんか決まってるのに」
「だな。バカにも程があるぜ」
「考えてる時間なんて無いしね。侑士もそろそろ苛立ち始めてる」
「早く決めろよ。いい加減中途半端も飽きた」

世間体などというものには、一切興味の無い男。そこら中に氾濫する無責任な噂話でさえも、一切気には留めていないだろう。

「決定権はお前にやるよ。俺はその決定に従う」
「珍しいこと言うじゃない」
「まぁな」
「どんな心境の変化?」
「優しさだ」
「それって優しいの?」

真綿で首を絞めるとはこのことだろうか。
薄っすらと笑みを浮かべ、まるで死刑執行でも言い渡されそうな空気だ。

「政略結婚なんてよく言ったものよね」
「だな」
「そこに愛は必要無いの?」
「無いんじゃねぇ?政略結婚なんだからな」

出会った頃と変わらない優しさで抱き締めてくれるだろうか。
他の男の手に堕ちた、この汚れた女を。

自分の友人と二股を掛けるような女を、このプライドの塊みたいな男が許そうというのか。

「愛が欲しいなら俺の傍に居るべきだろうな」
「でしょうね」
「自由になりたいなら侑士と結婚すれば良い。ただ、お前が愛されるとは限らないけどな。あいつには女がいる。俺もよく知ってる女だ。それでも良けりゃ、別に止めやしねぇよ」

突き放すような言葉も、裏を返せば「行くな」と言っているようなもの。
天邪鬼なのはそのプライドが邪魔をするからだろうか。それとも、ただ単に不器用なだけだろうか。
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