不誠実な恋
高校最後の夏、雨の中で泥にまみれて傷を負ったあたしは、腕の中で息絶えようとする愛しい人の最期の言葉さえも聞くことが出来ないくらいに錯乱していた。
思うように出ない声で泣き叫び、枯れることを知らないかのように止め処なく零れてくる涙を流し続け、冷えた体を寄り添わせて助けを待つ。
遠くから聞こえてくるサイレンの音よりも、打ち付けるように降る雨音の方が耳に残って未だに消えない。
運ばれた都内の大学病院はしんと静まり返っていて、まるであたし達を厳かに引き込んで行くようだった。
響き渡るあたしの泣き声も消毒液の臭いも、全てが何かのセレモニーの一環のようで。
夢か現実か。そんなことさえもわからないくらいに取り乱したあたしの体を抱き締めて懸命に宥めようとしたのが、まだ研修医期間中の侑士だった。
「とりあえず傷の手当しようや。自分も頭打ってるやろうし、検査もせなあかんねんで」
「嫌よっ!放して!翔太を何処に連れて行くのよっ!」
「手術室や。頑張っとるからそっとしといたり」
「返してー!翔太を返してっ!」
「お願いやからそう興奮せんといて。頼むわ」
後ろからあたしを抱き締めて拘束する侑士を押し退けようともがいても、傷を負った腕がとても痛くて。
蹲って泣き叫ぶあたしを抱きかかえ、泥と血で汚れてしまった白衣を着た侑士は近くの診察室の扉を器用に足でこじ開けた。
思うように出ない声で泣き叫び、枯れることを知らないかのように止め処なく零れてくる涙を流し続け、冷えた体を寄り添わせて助けを待つ。
遠くから聞こえてくるサイレンの音よりも、打ち付けるように降る雨音の方が耳に残って未だに消えない。
運ばれた都内の大学病院はしんと静まり返っていて、まるであたし達を厳かに引き込んで行くようだった。
響き渡るあたしの泣き声も消毒液の臭いも、全てが何かのセレモニーの一環のようで。
夢か現実か。そんなことさえもわからないくらいに取り乱したあたしの体を抱き締めて懸命に宥めようとしたのが、まだ研修医期間中の侑士だった。
「とりあえず傷の手当しようや。自分も頭打ってるやろうし、検査もせなあかんねんで」
「嫌よっ!放して!翔太を何処に連れて行くのよっ!」
「手術室や。頑張っとるからそっとしといたり」
「返してー!翔太を返してっ!」
「お願いやからそう興奮せんといて。頼むわ」
後ろからあたしを抱き締めて拘束する侑士を押し退けようともがいても、傷を負った腕がとても痛くて。
蹲って泣き叫ぶあたしを抱きかかえ、泥と血で汚れてしまった白衣を着た侑士は近くの診察室の扉を器用に足でこじ開けた。