不誠実な恋
生まれる時から一緒なのだから、これから先もずっと、死ぬ時だって一緒だと思っていた。
お互いに愛する人が出来て家庭を持っても、この関係だけは変わることのない未来永劫のものだ、と。

「双子か。どっちが上?」
「あたし。翔太は数分遅れの弟」
「そっか。カップルやなかってんな」

納得して机に頬杖をつく侑士の横顔は、そんな状況に立たされていてもとても綺麗に見えて。
いくつ年上かもわからなかったけれどとても大人っぽくて、まだまだ子供っぽさを残していた翔太の横顔とは全く違う大人の男の人の顔だった。

「ねぇ、先生」
「ん?」
「先生は兄弟とかいるの?」
「おるよ。看護師しとる姉貴が。それがどないしたん?」
「仲良し?大切?」
「んー、仲が悪いことはないな。それでも大事なんは大事やろな」
「あたしね、小さい頃から翔太が大好きだったの。何処に行くのもいつも一緒で、とっても仲良しだった。今日もね、二人で横浜までバイクで行った帰りだったの」
「そっか。急に雨降り出したもんな」
「酷い雨で、前なんかよく見えなくて…雨宿りしようって言ったんだけど、明日から学校だからって…」

起き上がって話し出したあたしをギュッと抱き締め、そっと背中を撫でてくれる。
それだけでついさっきまで感じていた息苦しさはなくなり、左半身に走っていた痛みでさえも和らぐ。そんな不思議な感覚だった。



「死んじゃったの、翔太。大好きだったのに」



泣いてしまうのではないかと思っていたけれど、どうやら頭は思っていたよりもずっと冷静に働いていたらしい。
声こそ震えていたけれど、涙が涙腺を伝ってくる気配はなかった。白衣の背中をギュッと握り唇を噛み締めるその行為は、涙を堪えるためではなくて。
もっと違う何か、たとえば悲しみであるとか喪失感であるとか、襲ってくるそんなものに耐えるための行為だった。


冷静過ぎたのかもしれないけれど、その先数日経っても涙は出ず、漸く自然と涙が出たのは、葬儀の日から一ヶ月経って久しぶりに侑士と再会した時だった。
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