不誠実な恋
「悩み事か?」

眠っていたはずの彼から不意をついて投げかけられた言葉に、ただ顔を背けて否定の意志表示をする。
敢えて言葉にしなくとも伝わるはずの想いは、次の瞬間には鍛えられた腕によって温かく、そして壊れ物に触れるかのようにそっと抱き止められた。

「頭痛い」

目覚めた時から…いや、眠りに落ちるその前から響くその鈍い痛みは、ここへ来て酷さを増していた。
そのせいで、とは言いたくはないけれど、元々素早く回転をするわけではないあたしの頭は、より一層回転率を下げている。


こうゆう時は黙秘を決め込む。と、キュッと結んだ唇をブランケットで覆い隠し、呟く言葉もより控えめに。
下手に口を開くと、本人の意図とは別に並べられる言葉があることはこの五年の間で幾度と無く経験してきた。

「気圧の関係やろかなぁ。いっぺんうちの病院で検査してみたら?」

頬杖をついて見下ろす彼にため息で返事をし、更に深くベッドへと沈み込む。

どうしてこの人はわかっていてわざと言うのだろう。奥さんから電話があったことも知っているし、自分自身も散々に嫌味を言われているはずなのに。

この性格の捻くれ加減は、ある意味尊敬に値する。

「相変わらず不機嫌なお目覚めで」

そうさせているのは、何をどう問うこともなく間違いなくあんただ。
確かに、確かにあたしの目覚めは良いとは言い難い。
低血圧な上に気圧の関係で度々起こる偏頭痛。病弱ではないけれど、万年頭痛持ちなのは確かだ。


けれど、それと今現在の不機嫌とはまた違う。
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