不誠実な恋
端から見れば一方通行の会話は、実はそれで会話が成されていたりして。

耳元で囁く優しい声を受け止めるあたしと、視線の動き一つで感情を読み取る彼。
器用なのは見せかけだけだと知っているからこそ、この行為をまるで当然かの如く成せる彼の能力が不思議で仕方ない。

結果的に、その微妙に醸し出す不思議な空気に惹かれたのは、他の誰でもなくこのあたし自身なのだけれど。



「ねぇ…侑士。別れようか」



独り言のように呟いた言葉を丁寧に拾い上げ、目の前の百戦錬磨は苦虫を噛み潰したような複雑な笑顔でゆっくりとあたしの髪を梳く。

その手はもう他の決まった女性のもの。
けれども、触れ合える距離に居る時だけはあたしのものでいて欲しいと願ってしまう。



何度別れの言葉にしようともそれはただの自己満足にしか過ぎず、その全てが彼の理解の上だということもわかっているつもりでいる。
わかっていながらも尚口にしてしまうのは、やはりあたしが彼を愛してしまっているという意志表示であり、不足している愛情を補いたいという本能かもしれない。

それを一度彼に問われた時に答えたら、返って来た答えは笑い混じりの完全否定の言葉だった。



美弥は不器用過ぎんねん。
無理にクールな女になろうとするだけ無駄やで。
ガキなんもワガママなんも、俺は全部知ってるから。



そこまで読まれていて、誰がそれ以上抵抗しようとするだろうか。バカじゃあるまいし。
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