不誠実な恋
けれど、バカな女のあたしは何度も同じことをしてしまう。完全に読まれていると知っていて、だからこそ彼が笑って拒否してくれるのを期待して。


「またまた。これで何度目やねん」


呆れとはまた違う切なげな目をし、彼はお決まりの台詞を吐く。

「いい加減解放してくれても良いんじゃない?」
「何を仰いますやら。解放してくれへんのは美弥の方でしょうに」

ブランケットを手繰り寄せて上半身を起したあたしの背中を指一本で擦りながら、更に低い声で呟くように言葉を紡ぐ。

その言葉があたしを縛り付けるものだと知っていて、離すまいとわざと言うのだから余計に性質が悪い。


その性質の悪い男を相手に何年も愛人関係を続けてきたのだから、あたしも世間で言うには相当な悪女だろうか。



「一緒におるやん。ずっと」



後ろから抱きすくめられた体は拒絶することも無く、受け入れていると言わんばかりに広い胸へと凭れかかる。重力に任せたまま、耳元で甘い言葉を囁く彼をチラリと窺い見た。

肩に乗った頭を満足げな表情を浮かべて撫でるこの顔は、いつ見てもとても幸せそうで。そんな彼を見ていると、悩みなど何も無さそうに見えるのが何ともやるせない。


正直なところ、あたしは彼の都合の良すぎる言葉にただ呆れて脱力していただけなのだけれど。
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