キスから始まらない恋。




みんなが騒いでいる中、一人ソファに座っているその姿は、ちっとも楽しそうに見えなかった。



考え込むように、下を向いている。






一人の男子が近寄って、なにか耳打ちした。

彼は顔を上げると私の方をちらっと見た。



え…なに…?



私は、不思議に思ったが、もしかしたら彼も私と同じことを考えているのではないかという、甘すぎる考えに堕ちた。



彼は、ゆっくりと立ち上がると、私の座っている方へ歩き出した。




私の胸の中には、期待以外の感情はなかった。




「…隣、いい?」

「ぁ…うん」


一言、言うだけでも、こんなに顔が熱い。

ジュースを持っている手が熱い。



「…なに?」


勇気を振り絞って聞く。彼は、下を向いて照れたように言った。



「秋野に伝えて欲しいことがあるんだけど」


「…夕子に?」


「うん。そう」


「なに?」


「終わったら、待ってて欲しいって」



親友の名前に、こんなにも絶望したことはなかった。






私の思いは、彼に届かなかった。
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