猫 の 帰 る 城
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夢のなかでも、彼はわたしに笑いかけてはくれなかった。
その身体を強く抱きしめて、サヨナラのキスを交わして、またねと言って別れる。
頭のなかでは何度も描いた完璧なシナリオを、彼は拒んだ。
自分の意志を、決意を、未来を。
誰よりも理解してくれるだろうと思っていた、彼が。
冷たい言葉は、いまも胸に突き刺さる。
引き留める彼の腕を振り払って、最低なサヨナラをした自分の言葉も、突き刺ささったままだ。
そのまま彼は遠ざかっていく。わたしが傷つけた。
やるせない愛と、怒りと、悲しみと、苦しみと。
すべてが入り混じった彼の最後の顔が、いまもわたしをずたずたにする。
何も出来ない。
手を振り払ったのはわたしなのに、遠ざかる影に、ずっと手を伸ばしている。
彼には届かない。
そのまま遠のいて、きっとこのまま消えて行って、二度と笑ってみせてくれない。
―――小夜子
何度も何度も、わたしの名を呼ぶ。
だけどわたしは、未だに、何の言葉も返せずにいる。