猫 の 帰 る 城
そんな小夜子との関係を、なんて表現するのが一番いいのかはわからない。
ただ彼女と交わした夜はいつも素晴らしいのだ。
性に関して感覚が合うとでも言えばいいのだろうか。
僕と小夜子は、無理なく同じ波に乗って、同じ波にのまれることができるのだ。
初めて彼女と身体をあわせたとき、おそらく双方がこれを感じ取っていたと確信できる。
例えば一生に一度あればいい、この恋が最後だと強く確信をもてるような、理屈じゃない、自分の感覚が確信するときのように。
僕と小夜子は、その確信で繋がっている関係なのかもしれない。
「わたしの直感、間違ってなかったんだ」
あるとき、小夜子は僕の腕の中でそう呟いた。
まだ熱の引かない額を僕の胸に押し付けて、彼女は穏やかな呼吸をしている。
行為の後、彼女はいつも華奢な身体を丸めて僕の胸に顔を埋める。
僕の鼓動を聞くのが好きなんだそうだ。
「直感ってなに」
僕は彼女の髪に指をいれてみた。
さらさらと抜けて、細かい砂のように指からこぼれ落ちていく。
まるで何か芸術品のようだった。
僕の心は穏やかに、その素晴らしさにただ感嘆していた。
「初めてヒロトとまともに話したとき。覚えてる」
「エレベーターの中だろ」
「そう。飲みに行こうって誘ったでしょう」
「うん」
「わたし、あのとき、矢野くんとは前から気が合いそうって思ってたんだ、って言ったの」
「覚えてるよ」
あの言葉は、ちょっとだけ嬉しかったのだ。
彼女は僕のことなんて気にも留めていないと思っていたからだ。
気にかけていた相手から、そんなことを言われるのは嬉しいものだ。