猫 の 帰 る 城
「ねえ、明日の約束、覚えてる?」
「…え?」
「もう。明日の夜は浴衣祭りに行こうって約束したじゃん」
梅雨に入るこの直前に、毎年浴衣祭りが開かれるのだ。このあたりの商店街近くの大通りに出店が並び、ちょっとしたステージなんかも組まれて、けっこうにぎわう祭りなのだ。
「ヒロに浴衣姿見せるのは初めてだね」
真優は嬉しそうにそう言うと、僕の腕に自分の腕をからませた。
真優のシャンプーの香りが風に乗って僕の鼻をくすぐる。
僕は月明かりを探した。
けれど月は厚い雲に覆われていて、まるで見ることができない。
かすかにそこにあるということがわかるだけだ。
夕方に見た天気予報を思い出す。
確か明日は、雨だった。