猫 の 帰 る 城
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チャイムが二回鳴った。
合い鍵を渡しているのに、小夜子は僕がいるとき、律儀に玄関前のインターホンだけを鳴らす。扉をあけると、白いファーコートを着た彼女が立っていた。
顔を隠すための大きなサングラスと、口元を覆っていたマフラーをとる。
するとちょっとだけ怒ったような顔が現れた。
人形のような大きな瞳に、それに合わぬ小さな顔。
大柄なデザインコートに隠れてはいるが、スタイルは抜群だった。
引き締まったウエストラインから、美しい脚へと続いていく。
形の良さを強調するように、黒のニーハイソックスは完璧なラインを沿っている。
足元は華奢なピンヒール。
小夜子が冬にあえてブーツを履かないのは、このほっそりとした足首を見せるためなのだと僕は知っていた。
束ねた栗色の髪を揺らして、小夜子は言った。
「すごく寒かった」
当たり前すぎることを言われて、不意にも僕は声をあげて笑ってしまった。
それはそうだ。こんな真冬に徒歩を交通手段に選ぶやつなんて、きっと小夜子くらいだろう。