猫 の 帰 る 城
その夜は、キスも、セックスもない初めての夜だった。
何もせず、ただ小夜子の傍にいてくだらないことを話したり、寄り添ってくだらないテレビを眺めたりした。
小夜子はもう泣かなかったけれど、ときどきどこか遠くをみるような目でしばらく黙った。
その間、男のことを考える。
すると僕から身体を離して、反対側に寝そべるのだ。
理由はわかっている。
ほかの男のことを考えているとき、僕に寄りかかることへの罪悪感があるのだ。
だから僕は彼女が話しかけてくるまで身体には触れない。
そうして彼女が忘れたころに抱きしめるのだ。
キスもしない、セックスもしない。
ただ何もせず、ただ彼女に一人じゃないということをわからせたくて、ただ傍にいた。
目が覚めると朝になっていて、僕の腕の中で彼女が眠っていた。
静かに寝息を立てる小夜子の頬には、かすかに涙のあとが残っていた。