猫 の 帰 る 城
僕は迎え入れるように小夜子の背中を引き寄せた。
小夜子がピンヒールを脱ぐと、身長差はいつもの十センチほどになった。
七センチのヒールを脱いで、百七十センチ。
モデルをやっていくには充分だった。
とりあえず冷えた彼女の体を温めようと、ストーブのついたリビングに続く、短い廊下を進んだ。すると突然、小夜子が僕の腕をつかんだ。
それからものすごい力で後ろに引きずられる。
「小夜子?」
小夜子は黙ったまま、廊下の手前にある寝室の扉を開け、僕を連れ込んだ。電気をつけなくても、カーテンを開けたままの窓からは月明かりが部屋いっぱいに差し込んでいた。
ベッドの傍らに立ち、小夜子が僕に向かい合った。
「それじゃあ、つまんないよ」
何がつまらないのか、よくわからない。
それでも、僕をじっと見上げる小夜子の目はいつになく揺れていた。
小さな顔が近づいてきて、そっと唇が重なった。
すぐに離れた唇は驚くほど冷たくて、間から漏れる吐息だけが温かかった。
小夜子は僕のシャツのボタンに手をかけた。
一つ目のボタンを外して、おもむろに口を開く。