猫 の 帰 る 城






大きくため息をつき、再び前を向いたら小夜子がいた。

アパート三階の角部屋の窓。
半分開いた窓に頬杖ついて、僕を黙って見つめていた。


いつからそこにいたのだろう。

いや、最初からいたのかもしれない。
彼女はじっと、こちらを見ていた。



僕は気づけば彼女のもとへと、走り出していた。

傘を捨てて階段を駆け上がる。
部屋に着くと同時に扉が開いた。

途端に小夜子の腕が伸びてきて、僕の身体を抱きしめた。
小さな頭を僕の胸に押し付けて息を吸う。
小夜子の指の腹が僕の肉に食い込んでくる。

強く、強く。

熱が吸い付くように。




「…ずっと待ってた」


彼女はそう言って僕の唇に自分の唇を重ねた。

彼女は僕の唇を、舌を吸った。
夢中でキスをした。
キスをしながらなだれ込むように玄関を抜け、ベッドに押し倒される。

雨音が聞こえる。
薄暗い部屋に、小夜子の白い肌だけが浮かんでいた。

猫のように鋭い、瞳を光らせて彼女は笑う。
真っ赤な唇はゆっくりと近づき、僕の耳元でささやくのだ。



「今日はわたしがしてあげる」














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