猫 の 帰 る 城
「気が進まないんだ?ドラマ」
いつの間にか4つ目も外し終えていた。
残り2つ。5つ目に手をかけて小夜子は言う。
「演技なんて、ちょっとその気になってできるものじゃないでしょう。わたしよりも演じることが好きで、本気で女優になりたい人なんてたくさんいる。それに…」
小夜子が黙った。
黙って、すべてボタンを外したシャツをそっと脱がせた。
僕は長袖のインナーだけになる。
僕の胸に小夜子が手を置く。
それから思い出したように尋ねてきた。
「そういえば、今日は大丈夫だったの。締め切り、近かったりとか」
今更ながらの質問で、僕は拍子抜けした。
呆れた顔で小夜子をみる。
「締め切りなんてどうせお構いなしだろ」
「そんなことないよ。売れっ子作家のお仕事、邪魔しようなんてほど欲求不満じゃないから」
「よく言うよ。前に締め切り寸前の日に押しかけてきて、そのまま仕事もほったらかし、おまけに寝不足で僕はふらふら」
「なんて言って、寝かせてくれなかったのはヒロトでしょ」
こんな綺麗な顔で、平然と卑猥な冗談なんて言ってのけたりするから、僕はいつもどきまぎする。
清涼飲料水を飲んで爽やかな笑顔を見せるモデルと、同一人物とは思えない。