猫 の 帰 る 城
胸に置かれていた手が下がってきた。
僕のベルトを掴み外そうとする。
だから僕は小夜子の細い手首を握って遮った。
それから触れるだけのキスをして、ファーコートに手をかけた。
真っ白なファーコートは、触れただけで上質なものだとわかった。
柔らかな毛並みに手を添える。
小夜子の華奢な肩から、そっとコートを滑り下ろす。
とても暖かそうな重みのあるコートを脱がすと、中はノースリーブのワンピースだった。
黒のベルベットだ。
大きくあいた襟元からは白い肌が浮かんでいる。
肩からは小夜子のきれいな腕が真っ直ぐに伸びていた。
背中に手を回し、ファスナーを下ろす。
すべて下りきると、そのままワンピースも小夜子の身体を離れた。
月明かりに、下着を身につけた小夜子の身体が照らされる。
とてもきれいだと僕は思った。陶器のように滑らかで、白い肌。
胸元や腰、腕の付け根のところにできた陰でさえ美しいと思える。
「…寒い」
小夜子は腕を下ろしたまま、僕を見上げる。
いくら室内とは言え、ストーブも何もついていない寝室は肌寒かった。
不機嫌そうにこちらを睨んでいるけれど、インナーだけの僕も同じように寒いのだ。
僕はベッドに腰掛ける。
この数分、我慢していた温もりを迎えるように、少しだけ笑って腕を広げた。
「おいで」
僕の言葉と同時に、驚くほど熱い身体が胸に飛び込んできた。