猫 の 帰 る 城
今日もいつものように、夕方になると店へ行った。
次第に人通りが増え始めた繁華街の通りを、ひとつなかに入って、二つ目の角を曲がった先にある。
扉を開け、地下に通じる暗い階段を降りるところから始まれば、あとは時間だけが勝手に過ぎていった。
与えられた仕事を淡々とこなし、時々誰かと会話をして、相槌を打って、愛想のいい笑顔を作ってみる。
そんな慣れないことを繰り返していれば、いつもあっという間に日付が変わった。
だから今日も、このまま終わっていくだろう。
時計の針は零時過ぎを指している。
一組のカップルを残し、落ち着きを取り戻した店内で、僕はグラスを磨いていた。
すると、地上の扉が開く音がした。
地下にフロアがあるこの店では、ドアベルをつけて来客を知らせる。
ヒールを打って階段を降りる音が続いた。
音が止むと、薄暗い空間に若い女性が姿を現した。
小柄な体に温かそうなコートをまとったその人は、顔をあげてカウンターを見渡す。
そうして僕で視線をとめると、ロングブーツで足音を刻みながら、ゆっくりとこちらへ向かってきた。
近づくにつれ、照明が女の身体を足先から照らしていく。
明かりが首元にさしかかったとき、僕は息をのんだ。
女の顔が照らされる前に、それが誰なのか、わかってしまったのだ。
たとえ片時でも傍にいれば、その身体の至る所が記憶に残っている。
「久しぶり」
真優はかすかに笑って僕の前に現れた。