猫 の 帰 る 城
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クリスマスの午後はとても寒かった。
頬を刺すような風が吹き抜けていき、その鋭さはコートを纏っていても容赦なかった。
空も晴天とは言い難い。
いつ雨を降らせてもおかしくない厚い雲が、広場のクリスマスツリーを重く覆っている。
僕はマフラーに顔をうずめ、ひとり浮かれた大通りを歩いていた。
何でもない日ならば、おそらく外出しないであろう人々も、今日はこぞって街に出ていた。
運悪く休日と重なったこともあり、外界はやけに賑やかだった。
今日のシフトは遅番で、それまでの時間は真優と一緒に過ごすことになっている。
彼女の家に行く前に、ワインの買い出しを頼まれていた。
こんな日に百貨店の地下なんて、テーマパークにでも行く覚悟をしておかなければならないだろう。
恐ろしく人に酔いそうで、気が遠くなる。
それでも、向かい風の冷たい大通りを歩き続けているのは、過去を振り切るために、真優を利用していることへの罪悪感を、形だけでも薄めたいからだ。
真優が望むことは、出来るだけ叶えてやりたい。
それがこんな最低な方法でしか、記憶から抜け出せないやつの、自己満足の罪滅ぼしだった。