月下の幻影
1.庶民な君主
昼食時の城内食堂が今日は奇妙な静けさに包まれていた。
いつもなら城内官吏が一斉にやって来るので、かなりざわついているのだ。
ヒソヒソ声は聞こえるものの、そこにいる人数に対してあり得ない静けさだった。
「ここに来るの久しぶりだけど、今日はやけに静かだな」
うどんをすすりながら和成(かずなり)は問いかけた。
その音が静かな室内に響き渡る。
「よろしいのですか? このような所でお食事などなさって」
和成の向かいに座った慎平(しんぺい)が、冷めた目で見つめながら問いかけた。
和成は思いきり顔をしかめると、非難するように慎平を睨んだ。
「”なさって”とか言うなよ」
「塔矢(とうや)殿でさえ敬語なのに、私がくだけるわけにはまいりません」
「塔矢殿だって俺と二人きりの時は今まで通りなんだよ。今は休憩時間だし、おまえも今まで通りでいいんだよ」
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