月下の幻影
部屋の戸を開けると、十二年前と変わらず、広い部屋の真ん中に大きな寝台があった。
和成は寝台に歩み寄ると、布団をめくり思わず声を上げて笑った。
「やっぱり、まだあった」
そこには、紗也が抱き枕にしていた和成の上着が、十二年前と同じ状態で横たわっていた。
和成は上着を引っ張り出して小脇に抱え、布団を元に戻すと寝室を出た。
次に覗いた部屋は書斎だった。
入口を入った左手に大きめの机が一つ置かれ、あとは図書館のように本棚が並んでいた。
本を読むのが好きな和成は、目を輝かせて本棚を眺め部屋の中をゆっくりと歩いた。
「ここは、もっと早く来てみればよかったな」
ふと、本棚の真ん中辺りに背表紙の少し飛び出した本が目に止まった。