月下の幻影


 部屋の戸を開けると、十二年前と変わらず、広い部屋の真ん中に大きな寝台があった。
 和成は寝台に歩み寄ると、布団をめくり思わず声を上げて笑った。


「やっぱり、まだあった」


 そこには、紗也が抱き枕にしていた和成の上着が、十二年前と同じ状態で横たわっていた。

 和成は上着を引っ張り出して小脇に抱え、布団を元に戻すと寝室を出た。

 次に覗いた部屋は書斎だった。
 入口を入った左手に大きめの机が一つ置かれ、あとは図書館のように本棚が並んでいた。

 本を読むのが好きな和成は、目を輝かせて本棚を眺め部屋の中をゆっくりと歩いた。


「ここは、もっと早く来てみればよかったな」


 ふと、本棚の真ん中辺りに背表紙の少し飛び出した本が目に止まった。

< 26 / 63 >

この作品をシェア

pagetop