月下の幻影
あまりに恐縮した様子に、和成は思わず苦笑する。
「頼むから、その”君主様”ってのやめてくれないかな」
「え? では何とお呼びすれば……」
「名前でいいよ」
「和成様……ですか?」
月海が恐る恐る名前を呼ぶと、和成はにっこり微笑んだ。
「うん。その方がいい。どうも”君主様”とか”殿”とか呼ばれるの、未だに慣れなくて」
照れくさそうに頭をかく和成の笑顔に、月海の目は釘付けになる。
「部屋の中はきれいだった?」
ぼんやり見とれていると、不意に和成がこちらを向いた。
視線がぶつかり、ドキリとして思わずうろたえる。
「あ、はい。大丈夫です」