月下の幻影
しばし後、布団をはねのけて勢いよく身体を起こすと、冷めた自分がポツリと呟いた。
「……私、バカ?」
月海はため息と共に寝台を下りると、上着を羽織って廊下へ出た。
少し頭を冷やそうと、中庭へと降りる石段に腰を下ろす。
真夜中の静寂の中、中庭の木々は月光に青白く照らされていた。
桜はチラホラと花を咲かせ始めている。
自室にいながらにして花見ができるとは、なんて贅沢なんだろうと月海は思った。
見上げると、雲ひとつない夜空に、ほとんど満月に近い明るい月が出ていた。
ふと、視界の隅に人影が見えた。
月海は立ち上がり、そちらへ視線を向ける。
もっと近くで見ようと、渡り廊下の手前まで静かに廊下を移動した。
近付くと人影の正体は和成であることが判明した。