月下の幻影


 ふてくされたようにそっぽを向く和成を見て慎平はクスリと笑う。


「いえ。以前、佐矢子殿が言ってたじゃないですか。和成様は機械でできた人形のようだと。あの頃は私も和成様は他人に対して淡泊な方だと思っていましたから、こんなにも深くひとりの人を愛する方だとは存じませんでした」


 和成は少し照れくさそうに慎平を見つめて問いかけた。


「いつから気付いてた? 俺が紗也様を想っている事」


 慎平は少しためらうように答えた。


「……あの時まで、気付きませんでした。だから、あの後和成様の落胆ぶりを見て、私の身勝手でお引き止めしてしまった事を少し後悔しました」

「俺も謹慎中はずっと後悔してたよ」


 和成は紗也を見送った後、あらゆる事を繰り返し悔やんでいた。

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