月下の幻影


 どうして紗也から目を離したのか。
 どうして自分の身の安全にもっと気を配っていなかったのか。
 どうして紗也の出陣をもっと強く反対しなかったのか。
 敵の動きがおかしい事に気がついていたのに、どうして刺客の存在に気付かなかったのか。
 どうして自分はまだ生き恥をさらしているのか。

 だが、いくら悔やんだところで時間も紗也も戻っては来ない。

 紗也から国の未来を託されていた事を塔矢に告げられ、やっと前向きになれた。

 本当はあの時、慎平が止めなければ戦も国も全て放り出して紗也の元へ行きたかった。
 そうなっていれば、圧倒的な戦力差で、あの戦には負けていたかもしれない。

 そして、紗也の願う平和は訪れることなく、君主不在の杉森国は衰退し消滅していただろう。


「今の俺の命は、紗也様の夢見た未来を築くためにある。ちゃんと礼を言ってなかったな。あの時、引き止めてくれた事、感謝してる」

「そう言っていただけて、私も肩の荷が下りました」

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