月下の幻影


 翌日、夜になって月海は暇をもてあました。
 和成が庭に現れるにはまだ時間があるが、もう廊下に出る気はなかった。

 幻影のような不思議で美しいあの光景が、自分にとってはつらいものでしかない事を知ってしまったからだ。

 それでも和成への想いに見切りを付ける気にはなれなかった。

 寝るまでの間どうやって時間をつぶそうか考える。
 ふと、和成が書斎の本を読みたかったらいつでも言ってくれと言っていた事を思い出した。

 昼間のうちに借りておくべきだったと後悔していると、懐の電話が鳴った。

 相手を確認してドキリとする。
 和成だ。


『まだ寝てないよね? 今から花見でもどう?』

「どちらへお出かけですか?」

『ここだよ。こっちの庭の桜が満開なんだ』

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