月下の幻影
途端に和成の声が楽しそうに弾んだ。
『よかった。じゃ、一緒に花見酒といこう。庭で待ってるから』
そう言って和成の電話は切れた。
最後の嬉しそうな声を思い出して月海はクスリと笑った。
「お酒が好きなのね」
和成の想いが自分にない事はわかっていても、一緒に酒杯を傾ける事ができるとなるとやっぱり嬉しい。
月海は鏡を覗いて、手櫛で髪をなでると部屋を出た。
渡り廊下を越えて、庭に和成の姿を捜しながら廊下を進む。
少し歩くと桜の木の前で手を振る和成を見つけた。
廊下から庭へ降りて和成の元へ駆け寄ると、桜の木の前に置かれた机の上に酒と盃が用意されていた。