月下の幻影


 和成に促され席に付くと、早速和成が月海の前の盃に酒を注ごうとした。


「私が、お注ぎいたします」


 月海は慌てて和成の持つ徳利を取り上げようと手を伸ばした。
 和成はその手を押さえてかまわず酒を注ぐ。


「いいんだよ。私が頼んで付き合ってもらってるんだから。無礼講ってことで」
「すみません」


 月海は恐縮して首をすくめると、盃に注がれる酒を見つめた。
 和成は自分の盃にも酒を注ぎ、盃を持ち上げた。


「じゃ、乾杯」


 和成の合図で互いの盃の縁を合わせ、一口酒を口に含む。

 舌に触れた味と鼻腔に抜ける香りに、月海は少し目を見張ると思わず呟いた。


「あ、おいしい」

< 54 / 63 >

この作品をシェア

pagetop