月下の幻影
和成に促され席に付くと、早速和成が月海の前の盃に酒を注ごうとした。
「私が、お注ぎいたします」
月海は慌てて和成の持つ徳利を取り上げようと手を伸ばした。
和成はその手を押さえてかまわず酒を注ぐ。
「いいんだよ。私が頼んで付き合ってもらってるんだから。無礼講ってことで」
「すみません」
月海は恐縮して首をすくめると、盃に注がれる酒を見つめた。
和成は自分の盃にも酒を注ぎ、盃を持ち上げた。
「じゃ、乾杯」
和成の合図で互いの盃の縁を合わせ、一口酒を口に含む。
舌に触れた味と鼻腔に抜ける香りに、月海は少し目を見張ると思わず呟いた。
「あ、おいしい」