月下の幻影
その反応を、和成は嬉しそうに笑う。
「わかる? かなりいける口だね。私が好きだからいい酒を用意してくれるんだけど、ひとりじゃ味気なくてね。これからも時々付き合ってくれると嬉しいんだけど」
「はい。いつでもお申し付け下さい」
胸がふわっと温かくなった。
多分、こんな風に共に過ごせる時間を持てるだけで満足できると思えた。
「では、ご返杯を」
月海は和成の盃に酒を注ぐと、目の前の桜に目を向けた。
満開の桜は月光の下、暗い庭の中でひときわ白く浮き上がっている。
「きれいですね。自分の部屋でお花見ができるなんて贅沢だなあって、この間思ってたんですよ」
「私もこの桜をこんな風にゆっくり眺めるのは十二年ぶりだよ。昔よりもさらに立派になったみたいだ」