月下の幻影
桜を見つめて懐かしそうに目を細める和成に、月海は何の気なしに尋ねた。
「以前は奥様と花見酒を?」
「いや、紗也様はお亡くなりになった時、まだ未成年だったからね。来年になったら一緒に飲もうと約束しただけだ」
ドクリと鼓動が大きく脈打って、月海は全てを一瞬にして悟った。
十二年前といえば、和成が君主に就任した年である。
先代が命を落とした戦は春だったと聞く。
十二年前、この桜の前で和成は先代と結婚の約束をしたのだろう。
それを悟った途端、胸が締め付けられるような息苦しさを覚えた。
この苦しみは和成の口からはっきり白黒付けてもらわない限り消えないような気がする。
月海は意を決し、玉砕覚悟の上で勝負に出た。
「あの、和成様。無礼講だとおっしゃいましたよね?」
「うん」
「私のわがままをひとつだけ聞いていただけませんか?」
「内容にもよるけど、とりあえず言ってごらん」