月下の幻影


「わ、私ったら、なんて事……! ご無礼をお許し下さい!」
「いいよ。無礼講だ」


 そう言って笑う和成に、月海はおもむろに顔を上げて言い募る。


「口づけもダメですか?」


 和成は一瞬絶句して月海を見つめた後、吹き出した。


「食い下がるね、君も。だけど交渉の仕方としてはうまいよ。最初ダメっぽいところから要求して、徐々に敷居を低くしていくんだ。だって、一夜の情けに比べたら口づけなんてなんでもない事のように思えるもの」


 和成は月海を抱き寄せると、額に軽く口づけた。

 月海は驚いて目を見開くと、和成の触れた額に手を当てた。

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