月下の幻影


 君主執務室へと続く廊下を歩きながら、和成は塔矢に問いかけた。


「私に会わせたい人って誰ですか?」
「おまえの護衛だ」


 周りに他の人が誰もいなくなると、塔矢の言葉から敬語が抜ける。
 和成が頼んでそうしてもらっているのだ。
 今は君主補佐官として和成の側に仕えているが、塔矢は元々、和成の上官だった。

 塔矢の言葉に和成は眉を寄せると抗議した。


「護衛はいらないって何度も言ってるじゃないですか。私は元護衛官ですよ。自分の身は自分で守ります」

「おまえがひとりで城下をうろついたりするから、せめて護衛を付けてくれと侍従長に泣き付かれたんだ」


 うんざりした表情の塔矢を横目に、和成はガックリと肩を落とす。


「ひとりで城下をうろついたのは十年前に一度だけです。私もあの時泣き付かれたので、以来ひとりで城外に出た事はありません」

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