月下の幻影
「そんな事はわかっている。だが、今のようにおまえの所在がわからなくなるたびに、繰り言を聞かされるのはいい加減うんざりなんだ。観念しろ。君主様はどうも庶民癖が抜けなくて困ると嘆いてたぞ」
塔矢がからかうような笑顔を向けると、和成は不愉快そうに顔を背けた。
「しょうがないじゃないですか。庶民歴の方が長いんですから」
塔矢はその様子をおもしろそうに笑う。
「人選は一任されたから、俺の部隊からおもしろい奴を選んでおいた。おまえの気に入りそうな名前だぞ」
和成はさほど関心もない様子で、軽くため息をついた。
「別に飲み友達じゃないんですから、おもしろくなくても、気に入らない名前でもかまいませんよ」
「執務室に待たせてある」
塔矢は意味ありげな笑みを浮かべて和成を見ると、軽く背中を叩いて執務室へ促した。