その恋、取扱い注意!
昨日のことを思い出すだけで、重いため息が出てしまう。電車に揺られ、朝からこんなに重いため息をついているのは、私くらいだろう。

暑気払いの場所は、地鶏が美味しいと売りの居酒屋。

渋谷支店全体の行事なので、もちろん松下さんも参加していた。最初は遠い場所に座っていた彼女は、酔った赤い顔をして目が座った状態で、ふらふらと近づいてきた。

「泥棒ねこ、飲みなさいよ」

ドンと、私の目の前にコップが置かれた。
透明な色、水を飲ますわけがないから、中身はどうやら日本酒らしい。

「松下さん……」

泥棒ねこ呼ばわりされるのは、心外だ。

「どういう意味ですか?」

松下さんの答えはわかっていたけど、聞いていた。

隣に座っている久我さんが、ぎょっとした表情で私たちを交互に見ている。

「湊が好きだったんなら、はっきり言いなさいよね!」

「あの時は、自分の気持ちに気づいていなかったんです!」

いや、前から湊のことは気になっていた。
でも、こうなるとはまったく思っていなかったし、あの時言えなかったのは、松下さんへの思いやりのつもりだ。


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