その恋、取扱い注意!
「何も知りませんって顔をして! 恥をかいちゃったじゃない!」

松下さんは足をふらつかせて、声を荒げた。

そこへすぐ近くの男性社員が私たちの間に入り、松下さんを落ち着かせようとしている。

「松下さん、今のこれが、恥だと思うんですけど」

シーンと静まり返ったところに響く私の声。
穴があったら入りたい気分だ。

松下さんの彼氏を取ったと、周りの人に思われてしまった。

「まあまあ、事情はわからないけれど、今は暑気払いだからね? 楽しくやりましょうよ」

課長が松下さんを、私から離れた席へ連れて行った。

あの後、ぎこちない雰囲気になってしまい、終わるのを待って逃げるように帰ってきた。



渋谷の駅に到着し、重い足取りで会社に向かう。

松下さんと顔を合わせるのも、他の人に会うのも嫌だな……。

梅雨も明けて、雲一つなくカラッとしたお天気なのに、心の中がどんより雲に覆われているみたいな気分。

私がそんな気持ちでいる中、湊に重大な話が会社から持ち上がり悩んでいたなんて、私は知る由もなかった。

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