その恋、取扱い注意!
用事を聞こうと立ち上がる私を、久我さんが困惑の表情で見ている。

「お疲れ様です」

松下さんの本社での肩書は、予約課の主任だと聞いていた。
私は頭を下げた。

「課長、安西さんを少しお借りします」

松下さんは私の後方に視線をやり、許可を取っている。

「あ、あのっ……」

「早くそこから出てきなさいよ」

戸惑う私に、松下さんは前のようなきつい言い方ではなく、柔らかい口調で命令した。
でも、その口調に騙されちゃいけない。

この期に及んで、なにか言われるに違いない。

行きたくなかったけれど、みんなが見ている前で拒絶することが出来ず、のろのろとカウンターを出た。

私が近づくのを見た松下さんは、自動ドアに向かっている。

松下さんに連れてこられたのは、少し離れた喫茶店。
若い女性が入る様なカフェではなくて、サラリーマン御用達みたいなオシャレな要素がまったくない古い喫茶店だ。

いつも前を通るけれど、一度も入ったことがない。
セレブな松下さんには似合わない。


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