その恋、取扱い注意!
低めの一人掛け用の赤いビロード素材のソファに松下さんは座り、対面に私も腰かける。
スプリングがいかれているのか、身体がぐっと沈み込む。

「お昼、まだでしょう?」

「お水で結構です。お財布を持ってきていないですし」

「そんなのはわかっているわ。私が払うから何か注文しなさいよ」

なにか魂胆があるのだろうか。警戒してしまう。

松下さんはウエイターに向かって軽く手をあげた。

「クラブハウスサンドとアイスコーヒーを、2人分お願いします」

「松下さんっ」

「ここのサンドイッチ美味しいのよ」

戸惑う私に松下さんは微笑みを浮かべる。

「なんのお話でしょうか?」

つっけんどんな口調になってしまう。

「昨日、あなたが今日で退職するって聞いて」

「……」

「あなたに迷惑をかけてしまったこと、謝りたくて来たの」

「えっ?」

今まで目を合わせたくなくて逸らしていたけれど、今の言葉に松下さんを見る。

「パリ行のお客様の件、キャンセルしたのは私よ」

「キャンセルした日、松下さんはお休みでしたよね?」

「誰かに言ってやらせるくらい簡単よ。その人の名前は言えないけれど」

私は経理課の松下さんと親しい女性の顔を思い出した。
あの日、更衣室で彼女は私を非難した。疑うのは悪いけれど、彼女のような気がした。

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