その恋、取扱い注意!
******

今日も雨。梅雨なのだから仕方ない。雨のせいか、お客様が少ない。

「安西さん」

企画営業課の松下さつきさんが、押してきた台車を止めて、私を呼んだ。

「今日は暇よね? この束のパンフに社判押しておいてね。終わったら、目立つ場所に出しておいて」

返事をする間もなく、指示を出すと行ってしまった。
私の後ろに置かれた台車を見て、呆気にとられる。

パンフレットが4束……。

「私も手伝うわよ」

隣の久我さんが、助け舟を出してくれる。

「ありがとう」

「でも、ひとりにやらせようだなんて、松下さんもなんだかな~って感じ。ここの社長令嬢だからって、何でも指示すればいいってもんじゃないのにね」

「う、うん……」

1年先輩の松下さつきさんは、私たちが働くインペリアル旅行社の社長令嬢。それに湊と同じ超難関大学卒の才女。課長クラスはもとより、部長クラスでさえ彼女に頭が上がらない。

時々来店するお客様の接客をしながら、空いた時間を社判押しに回す。
< 51 / 437 >

この作品をシェア

pagetop