その恋、取扱い注意!
頭を動かし前を見ると、そこにいたのは湊だった。
グレー地で細かいストライプの入ったスーツを着ている。
アタッシュケースを持ち、いかにも有能なできる男。

松下さんを見ている湊は、私に気づいていない。

「湊の会社って、この近くだったのね?」

新宿でも繁華街側ではなく、緑とオフィスビルが建ち並ぶ地域。

「ああ」

湊は言葉少な気だけど、嫌だと言う感じではない。

しかもさっき松下さんのことを「さつき」って呼んだよね。
湊と松下さんが同じ大学だったことを思いだす。
ふたりは知り合いで、親しそう。

私は松下さんの後ろに立ったまま、出るに出られなくなる。
今さらどんな顔をすればいいのか。

「たまには飲みに行きましょうよ。今日は?」

うわっ。松下さん、湊を誘ってる。ますます顔を出せない状況に。

「最近忙しいんだ。悪いけど、またな」

おーっ! 湊が美人のお誘いを断った。

「わかったわ。いつでも誘ってね」

松下さんの声で、がっかりしているのがわかる。

「じゃ」

「ええ」

湊が私の横を通る。次の瞬間「ミミ!?」と湊の驚いた声。

俯いていたんだけど……。

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